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2011年9月30日金曜日

Be Faithful。

今日は1人、昨日はゼロ、一昨日は2人・・・。
HIV検査結果の記録
青がネガティブ、赤がポジティブ

今週もPMTCT(母子感染予防)の部屋に来ている。
これは妊産婦初検診時に行うHIV検査で、
新たにわかったHIV陽性者の数。

今日は12名の妊婦たちがHIV検査をした。
どの人も平然を装った顔でいるが『HIV陰性』の結果を聞いた瞬間ふっと表情が緩むのが見てわかる。
並んだ12個の検査キットのうち今日は1個だけ明らかに2本の線が浮き出ているものがあった。

それは『HIV陽性』を意味する。

その告知の瞬間、22歳の女性は何度も何度も検査キットを見直した。

そして痛みをこらえるような顔のまま天を仰ぎ
「神様、神様・・・」とキクユ語でつぶやき、
しばらくして視線を地に落とし『Be Faithful』と口にした。




『Be Faithful』とは、「誠実・忠実・浮気をしない」という意味。
(ケニアではHIV予防のABCとして、A : Abstain(禁欲)、B : Be Faithful, C : Condomと教えられる。このABCについては世界的に諸説ある)

陽性だった彼女は、「今年の3月に検査したときは陰性だったのに・・・。私は浮気などしていないし、夫に忠実です。夫としか関係をもっていないです。」とカウンセラーに主張した。

そして、「今日一緒に病院に来ている夫をここに連れてくる」といって、部屋を出て行った。

30分経過しても戻ってこない・・・。

ケニアのHIV新規感染の約半分は、恋人間か夫婦間の性感染だといわれている。
これは浮気などが多いことを意味し、妊娠初診時に必ずHIV検査する女性に比べ、男性は妻が陽性であっても検査を拒否する人が多く、検査率が伸び悩んでいることも問題となっている。

夫に拒否されたかな?結果には触れず一緒に家に帰ってしまったかな?
と、ちょうど私たちが話し始めた頃に、妊婦は夫を引き連れてちゃんと戻ってきた。

夫は見た感じ20歳前半くらいのあまりにもさわやかな青年だったため、
「人は見た目ではわからないものだなぁ。」としみじみと感じていた。
カウンセラーが経緯を説明すると、夫はそれに同意してHIV検査を受けた。

10分ほどして夫の結果が出た瞬間、妻は号泣した。

号泣する妻の横で、夫はカウンセラーの言葉を深くうなずきながら聞いていた。

その間、夫はとても冷静だった。



夫の結果は『HIV陰性』だった。


もしかしたら妻を介して既に感染していて、抗体が出来る数週間後に『HIV陽性』となるかもしれないけれど・・・。

目の前で起こっていることをみつめながらじっと考えた。

最近わかっただろう2人の間の新しい命の誕生。幸せの絶頂。

初めての妊娠で、初めて産婦人科に足を運ぶときの夫婦の心境。

早朝から通常診療が全て終わる昼過ぎまで、妻を病院の敷地内で待っていた夫の心境。

愛されていた妻。

その妻に真っ先に疑われた夫。

泣きながら、3月にはHIV陰性だったと主張するHIV陽性の妻。


全てがまさかの展開だったはずだ。

その後、妻の要望でもう一度別のカウンセラーにHIV検査を頼み、CCC(HIV陽性者ケアセンター)に移動した。
そこは今日も長い待ち時間、私はつい先日作成した「母子感染予防」の本を手渡した。
夫はそれをすぐに受け取り、ちゃんと頭に入っているかどうかもわからなかったけどじっと文字を追っていた。
その姿を見て「お父さん、がんばれ。」と思った。

病院で表情を決して崩さなかった彼は、結局号泣する妻の身体に触れることは一度もなかった。

一体この妻に何があったのだろうか。

生まれてくる子供は誰の子だろうか。

赤ちゃんへのHIV感染は、今後の母親の治療と投薬で最小限に抑えられる。

それよりも乗り越えるべきことは、本日失われた?明るみになった?2人の信頼関係の溝。

今夜2人にどんな夜が訪れているのだろう。

2本の線=HIV陽性


2 件のコメント:

風太郎 さんのコメント...

感覚的に、女性が+、男性が-のカップルを
よく見る気がしてならないけれど・・・。

お互いの信頼関係の溝を、
どうやって埋めていくのか、
もしくはもう埋らないのか、
当事者にとっても、サポートする側にとっても
本当に難しい問題だと思う。

Miharu Shimizu さんのコメント...

>風太郎
コメントありがとう。
そして、風ちゃんのブログ見ました!
ポスター活用してくれて感激です!!ありがとう。

当事者にしかわからないことを
無関心の人たちにどれだけ自分のこととして考えさせるか・・・。
日本でもケニアでも難しいけど、やらねばね!